ハラスメント防止が義務化された背景
2020年6月(中小企業は2022年4月)に施行された「パワーハラスメント防止法(労働施策総合推進法改正)」により、すべての企業に職場のパワハラ防止措置が義務付けられました。措置が不十分な場合、厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象となります。
厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査(令和2年度)」によると、過去3年間にパワハラを経験した労働者は33.4%に達しています。セクハラは10.2%、マタハラ・パタハラは26.3%(妊娠・出産・育児に関連するハラスメント経験者)という結果も出ています。
ハラスメントによるリスクは法的責任だけでなく、離職率の上昇・生産性の低下・採用ブランドへのダメージという経営リスクも含まれます。
パワハラの6類型と具体例
厚生労働省のガイドラインでは、パワハラを「優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動で、就業環境を害するもの」と定義し、6類型に分類しています。
| 類型 | 具体例 | |-----|------| | 身体的な攻撃 | 暴行・傷害 | | 精神的な攻撃 | 脅迫・侮辱・暴言・人前での叱責 | | 人間関係からの切り離し | 無視・集団での仲間外し | | 過大な要求 | 明らかに不可能な業務を強要 | | 過小な要求 | 能力・経験と不釣り合いな軽易業務のみ担当 | | 個の侵害 | プライベートへの過度な立ち入り |
「業務上の指導」と「パワハラ」の境界線は、「業務上の必要性があるか」「言動が社会通念上相当な範囲か」で判断されます。同じ内容の叱責でも、繰り返し・大声・人前での叱責は「相当な範囲を超える」と判断されるリスクが高いです。
企業が実施すべき義務的措置
パワハラ防止法が求める措置は以下の4つです。
1. 事業主の方針等の明確化・周知
就業規則やハラスメント防止規程にパワハラを禁止する旨を明記します。経営トップが「ハラスメントは許容しない」と明確にコミットするメッセージを発信することが、文化形成に大きく影響します。
2. 相談窓口の設置
社内または外部の相談窓口を設置し、全従業員に周知します。窓口担当者には「秘密を守る義務」「相談者への不利益取り扱い禁止」を徹底します。社内窓口に相談しにくい場合のために、外部EAPや社外弁護士窓口の設置も検討します。
3. ハラスメント発生時の迅速・適切な対応
ハラスメントが報告された場合は、迅速に事実関係を確認し、被害者保護と行為者への適切な対応を行います。
4. 再発防止措置
行為者への再教育・職場環境の改善・全員への研修再実施などの再発防止措置を実施します。
管理職の予防行動と発生時対応
管理職は、法的措置の実施主体であると同時に、自分自身がハラスメントを行わないための自己認識が必要です。
管理職のセルフチェック:
- 部下を注意・叱るとき、他の社員がいる場所で行っていないか
- 特定の社員に対して叱責の頻度・強度が偏っていないか
- 「自分もそうやって育てられた」という基準で指導の相当性を判断していないか(時代・価値観のギャップ)
- 部下から「大丈夫です」と言われても、表情・行動の変化を観察しているか
1on1での関係構築が予防に効く:
管理職と部下の間に信頼関係があり、「相談できる関係」が日常的に作られていれば、問題の早期発見につながります。1on1の定期実施は、ハラスメント予防という観点からも有効な施策です。
ハラスメント発生時の対応プロセス
相談が入った場合の標準的な対応手順です。
- 相談受付・秘密保持の確認: 相談者に「秘密は守られる」「相談したことで不利益はない」を明示して受け付ける
- 事実確認: 相談者・行為者・関係者から別々に話を聴く。当事者を同席させない
- 行為者への対応: 事実確認の結果に基づき、注意・指導・懲戒処分等を検討。社内規定に沿って対応
- 被害者の保護: 被害者が安心して働ける環境を確保する。必要に応じて席・業務・上司を変更
- フォローアップ: 一定期間後に被害者に状況確認を行い、再発がないことを確認する
対応の記録はすべて書面化し、保管します。訴訟・労基署対応の際に証拠として機能します。
適性検査による「ハラスメントリスクの高い特性」の把握
適性検査の結果は、ハラスメントリスクの予防的把握にも活用できます。
- 協調性が低く支配性が高い特性の管理職は、部下への命令・指示が高圧的になりやすい傾向がある
- 誠実性が高く完璧主義的な管理職は、部下の成果が基準を下回ったときに過剰な要求・叱責につながることがある
これらはあくまで傾向であり、「適性検査の結果でハラスメント加害者と断定する」のではなく、「注意が必要な管理職への教育・1on1フォローを増やす」判断材料として使います。個人の傾向を知ることで、事前の対策が可能になります。
まとめ
- パワハラ防止法により全企業で防止措置が義務化(2022年4月〜中小企業も適用)
- 厚労省調査でパワハラ経験者33.4%・セクハラ10.2%。経営リスクとして把握する
- 義務的措置は「方針明確化・相談窓口・発生時対応・再発防止」の4点
- 管理職は自分自身のセルフチェックと日常的な1on1による関係構築でリスクを下げる
- 適性検査の結果を管理職育成の参考資料として活用し、予防的アプローチをとる
